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富山地方裁判所 平成6年(ワ)210号 判決

主文

一  被告らは、原告に対して、各自金一九四万五六五二円及びこれに対する平成六年八月一六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告の、被告らに対するその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを四分し、その三を原告の、その余を被告らの負担とする。

四  本判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

理由

【事実及び理由】

第一  原告の請求

一  被告らは原告に対し、連帯して、金七三三万一二一五円及びこれに対する平成六年八月一六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告と被告株式会社北陸銀行との間において、原告と被告株式会社北陸銀行との間で平成二年九月一四日に締結した借入金額一九一〇万円の消費貸借契約に基づく原告の被告株式会社北陸銀行に対する債務が存在しないことを確認する。

第二  事案の概要

原告は、被告第一生命保険相互会社(以下「被告第一生命」という。)との間で変額生命保険契約(以下この保険を「変額保険」、この契約を「本件保険契約」という。)を締結し、このための保険料相当額を被告株式会社北陸銀行(以下「被告北陸銀行」という。)との間で金銭消費貸借契約(以下「本件融資契約」といい、本件保険契約と本件融資契約を併せて「本件各契約」という。)を締結して借り入れ、被告第一生命に右金員を振り込んだ。原告は、本件保険契約締結に際して、被告らの従業員が変額保険について原告代表者に十分説明しなかったため、変額保険を通常の生命保険と誤信して本件保険契約を締結し、本件融資契約も本件保険契約と一体のものとして締結したと主張し、本件各契約の錯誤無効、契約解除、本件各契約締結の際の被告両名の従業員の不法行為(使用者責任)を根拠に、被告両名に対して損害の賠償又は不当利得の返還を求めるとともに、被告北陸銀行に対して、本件融資契約に基づく債務の不存在の確認を求めた事案である。

一  争いのない事実

1 原告は、機械製作を営む株式会社であり、代表者は、乙山太郎(以下「乙山」という。)である。被告北陸銀行は、原告の取引銀行である。

2 原告は、平成二年一〇月一日(以下、特に断らない限り、平成二年である。)、被告第一生命との間で、次の内容の変額保険契約(本件保険契約)を締結した。

(一) 証券番号 九〇〇九組第五〇〇〇〇二-三号

(二) 被保険者 乙山

(三) 一時払保険料 一九一〇万九七〇〇円

(四) 基本保険金額 三〇〇〇万円

3 原告は、九月一四日、被告北陸銀行との間で、右保険料に充てるために、次の内容の消費貸借契約(本件融資契約)を締結した。

(一) 融資金額 一九一〇万円

(二) 弁済期 平成九年九月一四日(元金一括返済)

(三) 利率 年利八・五パーセント(変動金利)

乙山及び乙山の妻で原告の監査役である乙山花子(以下「花子」という。)は、同日、本件融資契約につき連帯保証した。

4 一〇月三〇日、被告北陸銀行は、本件保険契約に基づく原告の請求権に対し、本件融資契約に基づく債権を被担保債権として質権を設定した。

5 本件保険契約締結に際しての、被告第一生命の担当者は、その従業員である金田八重子(以下「金田」という。)である。しかし、実際に乙山に本件保険契約を勧誘したのは、被告北陸銀行奥田支店(以下「奥田支店」という。)支店長前多清(以下「前多」という)である。

二  争点

1 本件保険契約及び本件融資契約の錯誤無効の成否

(原告の主張)

金田と前多は、乙山に対し、本件保険契約が通常の定額保険とはまったく別の種類の変額保険契約であること及びその仕組みや危険性についてまったく説明せずに、本件保険契約及び本件融資契約の手続を進め、原告と本件各契約を締結した。その結果、原告は、本件保険契約が変額保険契約であるのに通常の定額の生命保険の契約であると誤信して本件各契約を締結した。保険契約において、定額保険であるか変額保険であるかは重要な要素であるから、本件各契約は乙山の錯誤に基づいて締結されたものであり、無効である。

本件保険契約と本件融資契約は、形式的には別個の契約であるが、社会経済的実態からみても、当事者双方の立場にとって有する意義、果たした機能からみても、その実質は一体となった契約といえ、密接不可分の関係にある。したがって、本件各契約は、一体のものとして法的効力が判断されるべきであり、錯誤無効についても同様である。仮に、別個に検討するとしても、本件融資契約は、本件保険契約の払込み保険料の支払に充てる目的であることは明示されていたから、動機が表示されており、無効である。

(被告第一生命の主張)

金田は、本件保険契約の約款やその内容である重要事項が記載してある「ご契約のしおり」と題する書面(以下「契約のしおり」という。)を乙山に渡している。また、前多は、乙山に対して、本件保険が変額保険であることを説明し、本件保険契約締結に先立ち「保障設計プラン」と題する書面(以下「保障設計プラン」という。)を渡している。したがって、乙山は、本件保険契約が変額保険であることを十分承知していた。少なくとも、実業家としての乙山は、これを容易に理解できたものであり、仮に知らなかったとしても、乙山にはこの点につき重大な過失がある。

(被告北陸銀行の主張)

前多は、乙山に対して長期貸出業務の一環として本件保険と被告第一生命を紹介し、そのアドバイスとして本件保険契約が変額保険であることや、その概要も説明している。また、乙山は、本件保険契約締結時には、被告第一生命から契約内容を記載した書面を渡されており、本件保険契約締結後に被告第一生命から契約内容を知らせる「お知らせ」の書面を受け取り、税理士にも相談するなどして自己の判断により本件各契約を締結したのであるから、錯誤は生じていない。

2 被告第一生命の説明義務違反による債務不履行及びこれに基づく本件保険契約の解除

(原告の主張)

(一) 本件保険契約における説明義務違反

保険会社の新しい金融商品の販売に際しての説明義務は、その金融商品の性格、社会への浸透度、勧誘の態様、顧客の投資経験、商品知識、購入目的、資金の性格などを総合考慮して、個々具体的に決定されるべきであり、資料を見れば金融商品の性格や損失の可能性がわかるはずであるといった一般論で判断してはならない。

そして、変額保険は、従来の定型化された生命保険契約とは異なり、有価証券市場における相場の変動と保険金額が連動するといった複雑な内容を持ち、そのリスクの高い性格や、歴史が未だ浅く社会に浸透しているとはいえない状況にあること、本件においては、本件保険契約の申込みが、原告の自発的なものではなく、前多から持ちかけられたものであること、保険料が比較的高額で、しかもその保険料は全額銀行融資を受けており、かつ終身契約であることから原告の利子負担は長期間にわたって相当額になることが当初から予定されていたこと、申込者(乙山)の投資に関する経験は豊富とはいえず、契約目的が資金必要時や社長の退職金の備えであることの事情があり、このような場合には、被告第一生命は、かなり高度な説明義務を負っていたというべきである。即ち、被告第一生命は、変額保険の内容、特に原告が投資リスクを負担し、解約返還金が元本割れをする可能性のあることを原告において具体的に認識できたか否かを確認する義務があったというべきである。

しかるに、金田は、変額保険が定額保険と内容が異なるものであり、最近販売を認められたものであって、定額保険には見られないりスクを有するため、定額保険とは別の有資格者にしか募集が許されていないことを熟知しながら、前多による説明があったものとして、原告に対する保険勧誘の際に、自ら変額保険の特質について乙山に説明しなかった。また、金田は、本件保険契約の具体的内容を示す保障設計プランが直接乙山に渡されたか確認しておらず、しかも、保険加入の検討に必要とされる商品及び特約の営業案内も、乙山に渡していない。

(二) 右説明義務違反に基づく解除

前記説明義務は、本件保険契約を締結する前提条件として履行されなければならなかったものであり、この説明の有無により契約自体の成否が左右されるものであるから、十分な説明がなされておれば、原告は、本件保険契約を締結することはなかった。また、被告第一生命は、自らの過失又は故意により右説明義務を怠り、本来説明していれば締結されなかった契約を締結させた勧誘者であるので、契約関係を継続させる利益を享受させて法的保護を与える必要性はない。したがって、原告は、右説明義務を怠った被告第一生命の債務不履行を原因として、本件保険契約を解除する。

(被告第一生命の主張)

生命保険について保険募集人に正確な説明義務があることは当然であるが、その程度・範囲は、相対的なもので、説明の相手の知識、地位などにより決まるものである。乙山は、会社を経営し、相当の株式も所有し、銀行からも信用され社会的地位も高く、経済的にも裕福な環境にあった。したがって、乙山は、契約の申込みに先立ち、契約内容を検討するのに十分な判断力を有していたものである。そして、前多は、乙山に対し、変額保険の内容、運用面がマイナスになる可能性、変額保険の運用実績と借入金の支払利息との関係などを正確に説明した。また、前記のとおり、乙山は、「保障設計プラン」及び「契約のしおり」も受領している。そして、原告は、これらの説明を十分理解し、変額保険が経済動向と密接に関係し、日本経済が今後も成長を持続し、株価も上昇に転じるであろうという見通しを持ち、さらに、利息の支払能力も勘案し、借入金額と借入期間を決定し、本件保険契約の申込みを決断したものである。よって、被告第一生命に説明義務違反はない。

3 被告第一生命の違法勧誘による不法行為

(原告の主張)

保険募集の取締に関する法律(以下「募取法」という。)では、保険契約者又は被保険者に対して、不実のことを告げ又は保険契約の契約条項のうち重要な事項を告げない行為を禁止している。そして、大蔵省の保険会社宛の通達(昭和六一年七月一〇日蔵銀第一九三三号、以下「通達」という。)では、変額保険の募集にあたっては、〈1〉将来の運用成績についての断定的判断を提供する行為、〈2〉特別勘定運用成績について、募集人が恣意に過去の特定期間を取り上げ、それにより将来を予測する行為、〈3〉保険金額(死亡保険金の場合は、最低保障を上回る金額)又は解約返還金額を保証する行為、を禁止している。

本件では、金田は、乙山に対し、そもそも変額保険であること自体について説明しておらず、通達にも募取法一六条にも違反する。

金田の右行為は、単に行政取締法規に違反し、所定の効果を生じるのみでなく、取り扱った商品の危険性の高さ、有資格者でさえ許されない違法な方法による勧誘であること、これにより原告に与えた損害の甚大さ、行為態様の悪質性、変額保険の募集が、組織的に大量・反復・継続して行われたことなどから、不法行為を構成する。

(被告第一生命の主張)

原告(乙山)は、本件保険契約が変額保険であることは、前多の説明内容及び「保障設計プラン」と「契約のしおり」から明らかに理解できたものである。そして、前多の乙山に対する説明内容は、正しかったのであるから、被告第一生命には募取法に違反した行為は存在しない。

また、金田に今日の経済動向についての正確な予測を求めることは不可能を強いるものであるから、金田に過失はない。よって、金田には、原告に損失を蒙らせることについて、故意も過失もなかったから金田に不法行為は成立せず、被告第一生命は、使用者責任を負わない。

4 被告北陸銀行の説明義務違反による債務不履行及びこれに基づく本件融資契約の解除

(原告の主張)

(一) 本件融資契約における説明義務違反

原告は、機械製作を営む会社であり、原告代表取締役である乙山は、本業に精を出してきた者で、金融取引については知識も経験もまったくなかった。また、原告は、被告北陸銀行と長年にわたって取引を継続してきており、被告北陸銀行の支店長(前多)に寄せる信頼は厚く、まさか銀行がリスクのある商品を購入資金の世話までして勧誘することがあるとは思いつきもしなかった。この信頼は、社会一般にみられるものであり、被告らもこれを熟知し、本件各契約締結に当たってはこれを利用している。したがって、被告北陸銀行は、このような顧客に対して、複雑な内容を持つ変額保険を勧誘する場合において、特に十分な情報を提供し、取引内容について説明を尽くす義務がある。

また、被告北陸銀行の従業員である前多は、原告に対する本件融資資金の使途が変額保険の保険料の支払のためであること、有価証券市場などの相場の動向、銀行の貸出金利の変動及び保険事故の発生までの期間によっては、原告が損害を被る可能性があり、かつ乙山及び原告の関係者がこの事態を予想していなかったことを熟知していた。このような場合には、前多は、原告に対し、融資にかかる元利金の返済に関して誤った認識を持つことのないように、変動保険金と元利金の返済可能性及び危険性について十分説明し、原告が正確な理解のもとに判断を下せるよう配慮する義務があった。

被告北陸銀行は、これらの義務として、定額保険とは別に変額保険があること、本件で締結しようとしているのは変額保険であること、被告北陸銀行が融資をするのは、一時払いの保険料であること、融資内容は、元本据置返済であり、毎月支払うのは保険料でなく全額借入金の利息であること、変額保険は、保険金額が有価証券市場などの相場と連動し、相場の下落によっては変動保険金額がマイナスになること、変動保険金額が一定以上の増加をしない場合、借入元利が死亡時受取り保険金額を上回る場合があることなどについてよく説明し、変額保険の仕組みとリスク及び変額保険が保険料支払のための融資と抱き合わされている場合の危険性について、十分説明すべき義務があった。

しかるに、前多は、これらについてまったく説明せずに原告を本件保険に加入させ、本件融資を行ったものであり、説明義務に違反する。

(二) 説明義務違反による解除

前記説明義務は、本件融資契約を締結する前提条件として履行されなければならなかったものであり、この説明の有無により契約自体の成否が左右されるものであるから、十分な説明がなされておれば、原告は、本件保険契約及び本件融資契約を締結することはなかった。また、被告北陸銀行は、自らの過失又は故意により右説明義務を怠り、本来説明していれば締結されなかった契約を締結させた勧誘者であるので、契約関係を継続させる利益を享受させて法的保護を与える必要性はない。

したがって、原告は、右説明義務を怠った被告北陸銀行の債務不履行を原因として、本件融資契約を解除する。

(被告北陸銀行の主張)

一般に、銀行の顧客が保険への投資をするために、銀行に融資を申込み、銀行がこれに応じる場合、保険契約と融資契約は法律上別個であり、募取法九条により銀行は保険の募集をすることは行政取締法上できないから、銀行が顧客に保険の説明をする義務は原則としてなく、保険会社の説明義務だけが生じる。

本件では、前多は、本件保険契約について、税制上の利点、ハイリスク・ハイリターンの商品であること、またマイナス運用で元金割れを起こした場合でも、原告が今のままの状態で収益をあげているならば、その損害は実質的には相当緩和されることなど、保険外交員以上にマイナス運用の場合についても明確に説明し、乙山も十分その趣旨を理解していたのであるから、被告北陸銀行には、乙山の誤解を解くための説明義務が生じる余地はない。

5 被告北陸銀行の無資格勧誘、他業禁止違反による不法行為

(原告の主張)

募取法九条では、保険の募集は、損害保険会社の役員、使用人又は大蔵省に登録された生命保険募集人若しくは損害保険代理店のみが行うことができると規定し、銀行法一二条では、銀行の営むことのできる業務を限定し、他の業務の営業を禁止している。

しかるに本件では、前多は、本件保険契約の募集に際しては、顧客の中から対象者を選別し、勧誘を開始し、被告第一生命の従業員を同行して勧誘を続け、保険を選定し、本件保険契約及び本件融資契約の手続を進め、まさに中心となって活動した。このような前多の勧誘行為は、右規制に違反する違法なものであり、また被告北陸銀行及び被告第一生命の利益を図るために、原告を無資格者による勧誘の危険にさらし、かつ銀行に対して一般社会が有する高い信頼を悪用した、極めて悪質な行為である。

前多の右行為は、単に行政取締法規に違反し、所定の効果を生じるのみでなく、取り扱った商品の危険性の高さ、有資格者でさえ許されない違法な方法による勧誘であること、これにより原告に与えた損害の甚大さ、行為態様の悪質性、変額保険の募集が、組織的に大量・反復・継続して行われたことなどから、不法行為を構成する。

(被告北陸銀行の主張)

被告北陸銀行は、単に保険を紹介したにすぎないから、募取法違反を論ずる余地はない。

6 損害額

(原告の主張)

金田と前多の共同した違法な勧誘により、原告は、払込保険料一九一〇万九七〇〇円及び別紙支払利息一覧表記載の既払利息金四四六万四一三二円、合計二三五七万三八三二円の損害を蒙った。よって、原告は、被告らに対して共同不法行為及び債務不履行を原因として、右損害の賠償請求権を有する。また、原告は、本件訴訟を提起するにあたり弁護士に対して着手金五〇万円を支払い、報酬として二三五万七三八三円の支払を約した。よって、原告は、被告らに対して、合計二六四三万一二一五円の損害賠償請求権を有する。

また、本件保険契約は、錯誤により無効であるから、原告は、被告第一生命に対して、払込保険料相当額の不当利得返還請求権を有する。

ところで、本件融資契約は、錯誤により無効又は解除により消滅しているから、原告は、被告北陸銀行に対して、融資金額相当額の不当利得返還債務を負っている。そこで、原告は、被告北陸銀行に対して、右損害賠償請求権と、右不当利得返還債務を対当額で相殺する。よって、原告の、被告らに対する損害賠償請求権は、七三三万一二一五円となる。

(被告北陸銀行の主張)

争う。

(被告第一生命の主張)

原告は、本件変額保険の内容である諸権利を取得する対価として、保険料を支払ったのである。その保険料を、借入金で調達した以上、利息の支払は、経済活動として当然のことである。そして、被保険者である乙山に死亡とか高度障害の事態が発生すれば、原告は保険金請求権を取得することになるから、現時点での変額保険の運用実績が芳しくないからといって、保険料や借入金利息が損害であるというのは妥当ではない。

仮に損害が発生したとしても、本件保険契約と本件融資契約が別個の契約である以上、少なくとも、銀行借入金の利息については、被告第一生命の不法行為との間に因果関係はない。

7 過失相殺

(被告らの主張)

原告(乙山)は、本件保険契約締結に先立ち、「保障設計プラン」を受領し、申込書を提出する際には「契約のしおり」を受領していたから、わずかな注意を払えば、本件保険契約が変額保険の契約であったことが理解できたはずである。したがって、原告が、仮に変額保険であることに気づかなかったとしても、原告には重大な過失がある。

(原告の主張)

争う。

変額保険と通常の生命保険との差異は、一般には十分理解されておらず、仮に原告が「契約のしおり」を読んでいたとしても、変額保険が定額保険と異なることを指摘されない限り、その違いを理解することは不可能であった。したがって、過失相殺は理由がない。

また、本件保険契約は、勧誘の当初から専ら融資額の拡大を図る被告北陸銀行側の提案によるものであったこと、長年取引のある銀行の支店長から積極的に勧められたためつきあいとして本件各契約を締結したという受動的なものであったこと、契約締結に至る経緯において、被告第一生命の従業員金田は定額保険の資料も持参していたのにもかかわらず、前多が、それを乙山に見せずに変額保険を選択してこれを勧めたこと、前多は、金田が乙山に対して説明する機会を作らず、かえってこれを制限したこと、したがって金田も変額保険について説明していないこと、以上の点で通常の保険加入の場合とは異なり、過失相殺は権利の濫用に該当し、許されない。

8 損益相殺

(被告らの主張)

原告は、本件保険契約を解約すれば解約返還金を受領できる。この解約返還金は、原告の取得する利益として、賠償すべき損害額と損益相殺されるべきである。そして、この解約返還金は、本件口頭弁論終結日の前日である平成八年三月二六日現在一三一九万八〇三一円である。

また、本件保険契約による危険負担料は、責任開始から契約取消しまでの経過期間を五年三か月とすると、六五四万九三〇〇円となる。これは、右期間内原告が受けていた保険利益であるから、損害額と損益相殺されるべきものである。

(原告の主張)

被告第一生命は、場合によっては、原告の本件保険契約の無効主張を援用して解約返還金の支払を拒絶することも十分考えられ、また、実際に原告に対して解約返還金は交付されておらず、その提供もないから、損益相殺することは許されない。

仮に許されるとしても、原告は、平成六年八月五日に、本件保険契約の無効、解除を主張し、保険事故が発生しても保険金を受領しない意思を明確にしたから、本件保険契約による危険負担料は、右時点までに限定されるべきであり、その額は四四五万一〇〇円となる。そして、本件においては、本件保険契約と本件融資契約は一体となっており、仮に保険事故が発生した場合、結果的に原告が受領できる保険金額は一〇九〇万円であったので、被告第一生命の危険負担料の算定を前提としても、損益相殺をする際には、実際に原告が受けていた右保険利益に応じて、右危険負担料の三〇〇〇分の一〇九〇とすべきである。よって、仮に損益相殺が許されるとしても、その額は、多くとも一六五万三二〇三円となる。

第三  証拠《略》

第四  争点に対する判断等

一  変額保険の概要

《証拠略》より、変額保険の概要及びこれに対する規制については、次のとおり認めることができる。

1 変額保険は、国民の金利選好の高まりや高齢化の進展による生存保障のニーズの増大を背景として、日本経済の長期的発展と将来にわたる長期的展望の下に、インフレヘッジの要素を含みながら、経済成長に伴う資産運用の成果を契約者に直接還元するための保険商品として、昭和六一年一〇月一日から販売されたものである。

2 保険事故、保険期間、保険料の支払方法に関しては、変額保険は、通常の定額生命保険と変わるところはないが、保険料のうちの責任準備金に対応する部分を「特別勘定」で運用する点に特色がある。その運用方法は、キャピタルゲインの取得を目的とし、上場株式、公社債などの有価証券を主体とし、具体的投資対象は、国内外の経済・金融情勢、株式・公社債市場の動向などを勘案して決定される。そして、その運用実績に基づき、死亡保険金、高度障害保険金及び解約返還金が、増減、変動する。そのため、満期保険金及び解約返還金については、最低金額の保証はない。しかし、変額保険も、死亡、高度障害という保険事故の際の経済的危機に備えることを主たる目的としているから、運用実績が悪い場合でも、保険金の最低保証金額(基本保険金額)は定められている。

したがって、通常の定額保険では、資産運用実績による投資リスクを保険者である保険会社が負担するのに対し、変額保険では、そのリスクを保険契約者が負担することになる。

3 このように、保険契約者にリスク負担が求められ、しかも従来存在しなかった形式の保険であり、その仕組みも複雑で一般人には理解が困難な点もあるため、変額保険の募集については、募取法以外に、大蔵省の通達が発せられている。

すなわち、募取法九条(ただし、平成七年改正保険業法によって廃止される以前の規定。同旨の規定は、改正保険業法に定められている。以下同様。)では、生命保険の募集業務を行える者を「損害保険会社の役員、使用人又は第四条二項の規定により登録された生命保険募集人若しくは損害保険代理店」に限定し、これに違反した者に対しては、一年以下の懲役又は一万円以下の罰金に処する旨を規定している(二二条一項一号)。また、変額保険の前記特殊性に鑑み、通達では、「資産運用リスクを契約者に負担させることになるだけに、定額保険以上の慎重な募集対応が必要である。」とされ、将来の成績運用についての断定的判断の提供の禁止等が禁止されている。加えて、変額保険の前記特殊性に鑑み、変額保険に関しては、生命保険協会による販売員資格制度(以下「自主規制」という。)が設けられ、その資格を有する者(以下「有資格者」といい、この資格のない者を「無資格者」という。)のみに変額保険の販売が許容されている。

二  本件各契約締結に至る経緯等

前記争いのない事実及び《証拠略》によれば、本件各契約締結に至った経緯等については、次のとおり認めることができる。

1 前多は、七月に奥田支店に支店長として赴任し、八月中旬頃、奥田支店の取引先である原告に乙山を訪問した。その際、前多は、乙山に対して、当時、被告北陸銀行が長期貸出業務推進の一環として取り扱っていた変額保険の話をしたところ、乙山はこれに興味を示したので、三井生命保険相互会社のメニューに基づき前多が作成したメモを乙山に示しながら、銀行から融資を受ける保険料相当額の借入金の利息は損金処理が可能なこと、将来不測の損害が生じたときは保険を解約することにより得られる運用益により充当することが可能なこと、また運用益がマイナスのときは会社の利益と相殺勘定により税金が減額されることなど、特に変額保険による節税対策を中心として、変額保険のメリット、デメリットを説明し、勧誘した。また、前多は、変額保険の保険料として三〇〇〇万円借り入れた場合の年間支払利息と一九一〇万円借り入れた場合の支払利息を説明した。

2 八月二四日頃、前多は、奥田支店の行員に保険の勧誘に来ていた金田に対して、変額保険に対して質権設定が可能か否かを尋ねたところ、金田は可能であると答えた。そこで、前多は、原告が変額保険契約を締結する意思があれば、被告第一生命の変額保険を紹介、勧誘することに決めた。

3 八月二八日頃、前多は、再度原告の事務所に乙山を訪問し、乙山に変額保険を勧誘し、その加入の意思を打診したところ、乙山は保険金を三〇〇〇万円とする変額保険に加入する旨返答した。そこで、前多は、八月二九日、金田に対して原告を保険契約者、乙山を被保険者とする変額保険の保障設計プランの作成を依頼した。これを受けて被告第一生命は、保障設計プランを作成し、金田は、これを八月三〇日に奥田支店に届け、前多は、当日午前中に乙山に届けた。前多は、同日の午後、金田を同道して原告の事務所に乙山を訪問した。そこで、乙山は、本件保険契約の申込書を作成した。

4 八月三一日、金田は、被告第一生命の審査医を伴って原告の事務所に乙山を訪問し、本件保険契約のための検診を行った。

同日、前多は、本件融資のための稟議書を作成し、被告北陸銀行の融資担当者に提出した。

5 九月五日、乙山は、本件融資契約締結のために、原告、乙山本人及び本件融資契約の連帯保証人となった乙山の妻の花子の印鑑証明書の交付を受けた。

6 九月一四日、原告は、被告北陸銀行と本件融資契約を締結し、これに基づき、被告北陸銀行は、奥田支店の原告の当座預金口座に一九一〇万円を入金した。そして、被告北陸銀行は、同日、同口座から被告第一生命に保険料一九一〇万九七〇〇円(正確には、送金手数料七二一円を控除した残金一九一〇万八九七九円)を送金し、その後、原告から同日付けの原告振出しの右金額の小切手を受領した。

また同日、奥田支店の辻英治が、原告の事務所に乙山と花子を訪問し、本件融資契約の連帯保証人となる意思を確認した。

7 一〇月三〇日、被告北陸銀行は、本件保険契約に基づく原告の各請求権に対し、本件融資契約に基づく債権を被担保債権として質権を設定した。

8 原告は、被告北陸銀行に対し、本件融資契約に基づく利息を別紙支払利息一覧表記載のとおり支払った(原告と被告北陸銀行との間では争いがなく、被告第一生命との間では弁論の全趣旨により認められる。)

9 乙山は、本件各契約締結当時、松下電器、キリンビール、富士通の各株式を所有していた。また、乙山は、右当時、別紙記載のとおり五個の保険に加入しているが、変額保険には加入したことはなかった。

三  以上の認定に対し、原告は、〈1〉本件融資契約については、毎月利息のみを返済し、元金を一括返済することは知らず、融資金額が一九一〇万円であることも知らなかった、〈2〉本件保険契約が、変額保険である旨の説明は聞いておらず、定額の生命保険であると認識していた。また、乙山は、保障設計プランを本件保険契約締結前には受領しておらず、変額保険が節税に役立つとも聞いていない、と主張し、乙山はこの旨供述するので、以下検討する。

1 〈1〉について

本件融資契約の契約書である丙四の1(金銭消費貸借約定書)には、借入金額として一九一〇万円、資金使途として変額保険一時払保険料払込資金、最終返済期として平成九年九月一四日、元金の返済方法として期日一括と、借入れ条件が明記されている。そして、乙山は、原告の代表取締役であり、銀行融資を受ける際は自らこれを担当し、通常は、金額などを確認した上で契約書を作成している旨供述していることからすると、今回のみ右借入れ条件について何ら説明を受けず、また内容を確認していないとは考えられないこと、被告北陸銀行では、変額保険の保険料の融資の場合、その融資期間は通常一〇年であるが、本件では七年で設定しており、この理由が、乙山の希望によるものであること、乙山は、融資を受けた九月一四日に、本件保険契約の保険料支払のために、額面額一九一〇万九七〇〇円の小切手を振り出し、奥田支店に届けていること、被告北陸銀行は、原告に対し本件融資契約に基づく利息の支払予定を記載した書面を送付していること、また、乙山と花子は、同日、奥田支店の辻の訪問を受け、本件融資契約の保証人となる意思の有無の確認を受けていること、以上の各事実に照らし、原告の主張は採用できず、乙山は、右借入れ条件を認識して本件融資契約を締結したと認めるのが相当である。

2 〈2〉について

右で判示したように、丙四の1には、本件融資契約の資金使途が変額保険一時払保険料払込資金であることが明記してあり、これを乙山は認識していたと認められること、本件保険契約の申込書には、中段に、「ミリオン(変額型)」変額保険(終身型)・一時払、一時払 保険金建、と明記してあり、乙山はこの書面に署名していること、そして、その際に乙山は「契約のしおり」を受領していると認められること、保険契約を締結する際には、保険契約者としては当該保険の給付内容に最も関心が高いのが通常であり、この点を確認せずに契約を締結することは通常は考えられず、殊に本件のように高額の保険料を一括して支払う場合には、なおさらであること、したがって、その内容や支払うべき保険料を確認するために、契約の概要を記した書面(本件での保障設計プランに相当する書面)の提示と説明を受けるのが通常であると考えられること、前多が八月三一日に作成した本件融資契約の稟議書には保障設計プランが添付されており、遅くともこの時までには保障設計プランは作成されていたこと、前多は、乙山に保障設計プランを渡したと供述していること、以上の諸点に照らし、乙山は、保障設計プランを本件保険契約締結に先立ち、八月三〇日頃受領していると認められる。そして、保障設計プランからは、本件保険契約が、変額保険を内容とするものであることは容易に理解でき、前記の判示のとおり、乙山は、本件保険契約が変額保険を内容とすることを認識していたと認められるから、乙山が、変額保険の内容についてまったく説明を受けなかったと認めることはできない。よって、原告の前記主張は採用できない。

四  争点1について

以上の事実によれば、乙山は、本件保険契約が変額保険の契約と認識していたと認められるから、本件各契約締結に際して錯誤があったと認められない。

五  争点2について

前記一で判示した変額保険の特殊性並にこれに対する法的、行政的及び自主的規制に照らせば、変額保険を募集しようとする生命保険会社(本件では、被告第一生命)には、変額保険勧誘について資格のある生命保険募集人により、変額保険の特殊性、そのリスク等を十分説明する義務があるというべきである。しかるに本件では、金田は、自ら乙山に対して変額保険について何ら説明しておらず、専ら無資格者である前多が説明するのに任せていた。よって、被告第一生命は、原告に対して有資格者による変額保険の説明をしていないから、右義務に違反したというべきである。

これに対し、被告第一生命は、前多が乙山に対して変額保険について十分説明したから、右義務違反はないと主張するが、かかる主張は、現実に説明がなされていれば、その説明をしたものが有資格者か無資格者かは問わないと言うに等しく、通常の生命保険についてさえ募集人の資格を限定し、違反に対し刑罰をもって臨んでいる募取法の趣旨に照らし、到底採用できない。

そして、この義務は、保険契約を締結するに際しての付随的義務と解されるところ、原告は、この義務違反に基づき本件保険契約の解除を主張しているので、この点を検討する。付随義務違反により契約解除が認められるためには、右違反により、当該契約の中心的な目的が達せられない場合に限定されると解するのが相当であるところ、本件保険契約における契約の中心的な目的は、保険契約者としての地位の取得であり、右義務違反によりこの目的は阻害されていないから、原告の本件保険契約の解除の主張は認められない。

六  争点3、5について

1 前記一及び二で判示したところからすれば、無資格者である前多が、本件保険契約の説明、勧誘を行い、金田は、原告に対して、自ら有資格者による説明、募集、勧誘を行わず、前多の右説明を前提に本件保険契約を締結したものである。よって、前多の行為も金田の行為も、募取法及び自主規制に違反することは明らかである。

2 そして、募取法は、通常の生命保険でさえ無資格者による募集を刑罰をもって禁止していること及び変額保険募集における募集人に要求される知識量に鑑みると、生命保険会社が有資格者により変額保険の募集・勧誘を行わないこと及び無資格者が変額保険の募集・勧誘を行うことは、いずれも不法行為を構成する違法性を具備するものというべきである。

3 したがって、無資格者である前多が原告に対して本件保険契約を説明、勧誘した行為及び金田が自ら説明せず前多が説明、勧誘するのに任せて本件保険契約を締結した行為は、原告に対する不法行為を構成し、両者は共同して本件保険契約の募集、勧誘を行い、本件保険契約を締結したと評価できるので共同不法行為にあたる。よって、被告第一生命及び被告北陸銀行は使用者責任を負い、これによる損害賠償責任は、不真正連帯債務の関係にあるものというべきである。

4 これに対して、被告第一生命は、金田は経済変動(いわゆるバブル経済の崩壊)を予測できず、故意又は過失がないと主張するが、本件における故意又は過失は、有資格者により変額保険の説明を行わなかったことについて求められるものであり、被告第一生命の主張は理由がない。

また、被告北陸銀行は、前多の行為は変額保険の紹介に過ぎないと主張するが、前記のとおり、本件においては専ら前多が乙山に対して変額保険の内容を募集、説明し、勧誘したことが明らかであって、被告北陸銀行の主張は理由がない。

七  争点4について

前記一3で判示したところによれば、銀行には、変額保険についての説明資格は与えられておらず、かえって、説明を行うことを禁止されている。したがって、被告北陸銀行には、本件保険契約についての説明義務は生じない。

また、被告北陸銀行の融資契約に際しての説明義務は、原則として当該融資契約の利率、返済条件など融資契約の内容に関する事項に限られ、融資金の使途についてまで及ぶものではない。本件の場合、被告北陸銀行(その従業員である前多)が、原告に対して積極的に、本件各契約の締結を勧誘しているが、そもそも変額保険の保険料支払のための融資自体が募取法で禁止されているわけでも通達で規制されているわけでもなく、乙山は、当時原告の代表取締役として経営に携わり、銀行取引も行っており、銀行との融資契約については通常人以上の判断能力を持っていたと認められるから、被告北陸銀行(前多)としては、原告の本件保険契約を締結するという判断を尊重し自らの資金回収のために原告らの資産や返済能力を把握して融資の可否を決定すれば足りるというべきであり、融資金の使途が変額保険の保険料であることを認識していたとしても、その保険契約の当否まで原告に対し説明する義務があるとは認められない。よって、原告の主張は採用できない。

八  争点6について

1 以上の次第で、被告第一生命と被告北陸銀行は、原告に対する共同不法行為により、連帯して、不法行為により生じた損害を賠償する責任を負うが、この損害については、本件融資契約に基づく支払利息及び弁護士費用に限られると解するのが相当である。その理由は以下のとおりである。

2 前記のとおり、原告は、被告らの前記不法行為により、本件各契約を締結し、本件融資契約に基づき被告北陸銀行から一九一〇万円を借り受け、本件保険契約の保険料の支払のために一九一〇万九七〇〇円を出捐し、被告北陸銀行に、本件融資契約の利息として合計四四六万四一三二円を支払う結果となった。

ところで、原告は、本件保険契約に関し、いまだ解約権を行使していない。また、既に判示したように、原告の主張する錯誤無効や契約解除の主張は認められない。その結果、本件保険契約は、現在でも有効に存続していることになる。したがって、原告は、本件保険契約に基づく保険契約者の地位を依然有しており、これは前記保険料の対価であるから、保険料の支払をもって損害と評価することはできないというべきである。確かに、保険契約者としての地位の中心をなす保険料給付請求権の内容(変動保険金)は現時点では減少しているが、これは、経済情勢の変化の結果であり、この減少は、本件不法行為によるものとはいえない。

次に、本件融資契約に基づく利息について検討する。確かに、保険料支払のための金銭の調達は、本来保険加入者において行うべきものであり、この資金のために銀行融資を受けた場合でも、融資に伴う利息などの費用は、本来変額保険の締結から通常発生する損害にはあたらない。しかし、前記二で判示したとおり、本件においては、前多は、保険料を借入れることにより原告に本件保険契約による節税効果が発生すると説明しており、当初から銀行融資により保険料を調達することが、原告及び前多、金田の間で前提とされていたものであるから、前記前多及び金田の違法行為と右利息支払との間には、相当因果関係があると解するのが相当である。

3 本件における前記不法行為と相当因果関係にある損害としての弁護士費用は、金四〇万円をもって相当と認められる。

4 以上により、本件において原告に生じた損害は、本件融資契約に基づく利息支払分四四六万四一三二円及び弁護士費用四〇万円との合計四八六万四一三二円であると認められる。

九  争点7について

前記判示のとおり、乙山は、原告の代表取締役として原告の経営にあたり、株式投資をしており、相応の判断能力があると認められること、そして、前多は曲がりなりにも変額保険の概要、特色を乙山に対して説明しており、乙山は、「保障設計プラン」や「契約のしおり」の交付を受けていること、したがって、乙山は、変額保険について一応の理解をしており、金田により的確な説明を求めることは十分可能であったと認められること、それにも関わらず、原告が前多の説明のみを受けて本件保険契約を締結したことは原告の過失と評価すべきであること、以上の点を斟酌し、前記認定の本件不法行為の態様、程度とを比較考慮すると、前記損害額のうち四割をもって被告らの賠償すべき額と定めるのが相当である。

これに対し、原告は、過失相殺は権利の濫用に該当すると主張する。しかし、原告の主張する権利の濫用を基礎づける事実は、いずれも被告らの不法行為における過失を基礎づける事実に過ぎないものであり、原告の主張は理由がない。

一〇  争点8について

本件における原告の損害を前記八のとおり把握する以上、被告らが争点八で主張している事実は、いずれも損益相殺の事由とはならない。

第五  結論

よって、原告の被告らに対する損害賠償請求は、一九四万五六五二円(一円未満切り捨て)及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で理由があるので、右範囲で認容し、その余は棄却することとし、原告の被告北陸銀行に対する本件融資契約に基づく債務の不存在確認請求は、理由がないから棄却する。

(裁判長裁判官 渡辺修明 裁判官 堀内 満 裁判官 鳥居俊一)

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